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司会者・エッセイスト
楠田枝里子さん
くすだ  えりこ


 三重県伊勢市に生まれる。
東京理科大学理学部を卒業後、日本テレビのアナウンサーを経て、フリーとなる。
本格的な海外情報番組の先がけとなった「なるほど・ザ・ワールド」の司会で人気を博する。
同時期に、科学エッセイ「ロマンチック・サイエンス」がベストセラーとなり、その後も「不思議の国のエリコ」「ナスカ砂の王国」など著作活動を続け、これまでに33冊を出版した。
  最新刊は、「ピナ・バウシュ中毒」。現在好評放送中の「世界まる見えテレビ特捜部」「FNS歌謡祭」をはじめ、数々の番組の司会者としても、意欲的に仕事を展開している。




『素晴らしい教師との出逢い
生き方変える 力 』

 久し振りに晴れた宵の空に燦然と輝きはじめた金星・・まるでそれを従えるかのごとく現れた楠田さんは、黒のジャケットに白のブラウスという華やかな雰囲気だ。チョコレートが大好き。明 るくてポジティブ、まわりの雰囲気をかえてしまうパワーの持ち主だ。

 少女時代は、さぞかし聡明できりりとしてリーダーシップを発揮していたかと思いきや、のんびりやでぼんやりと一日中、野原で寝転がって過ごしていても退屈しないような子どもだったという。ただし、おままごとや着せ替えで遊ぶよりは、男の子たちと近所の鉄工所に行って駆け回って遊んでいたほうが面白かったというから、活発さの片鱗はしっかりのぞいている。本を読むのが好き、書くのも好きという楠田さんは、6年生では壁新聞作り、やがて高校生になると新聞部(文芸部とバスケット部も掛け持ち在籍)に所属する。学期末に発行する新聞作りは、学期末の定期試験と重なる。試験期間中学校に泊り込んで原稿を書いたため、成績はガタ落ちだった。こっそり部室に6、7人で泊まりこみ、小さなランプをたよりに、徹夜で原稿を書く。カツンカツンと足音が聞こえ、見回りがくると明かりを消し息を潜める。
 ある冬の朝早く、夜の間に雪が降り積もった校庭に、徹夜した仲間と雪だるまを作り、いつも学校へ一番乗りで登校してくる先生の目を瞠らせた。心に残る楽しい思い出だ。


 楠田さんの先生との出会いは羨ましいくらいに素晴らしい。なんとも個性的な3人の先生が登場する。まずは小学校5年の担任だった西村博先生。大学で数学を専攻した先生は、算数の授業になると目を輝かせて嬉しそうに、それは大喜びで一生懸命授業をする。なんと終了チャイムが鳴り、休み時間になっても気づかずに授業を続ける。「先生、もう休み時間だよ」と子どもたちがあきれて声をかけると、先生は「困ったなあ・
・」と一言。算数の問題がまだ途中で、ここで終わるわけにはいかないのだ。それで結局次の時間も算数。1日中ずっと算数だったこともある。でも、楠田さんは、そんな先生が担任で本当に良かったと感謝している。黒板に向かって算数を一生懸命に嬉しそうに教える先生の後姿からみんなが感じたこと、算数が嫌いでも好きでも、先生から全員に『確実』に伝わったことがある。―「算数は、一人の人間をこんなに夢中にさせてしまうほど素敵な世界なんだ!私たちは小さくてまだわからないけれど、きっとそこには何か素敵なことがあるに違いない」 。「公式を沢山教えて問題を解くことではなく、その世界がいかに素敵なものであるかを伝えること。それが小学校教育に、一番大切なことではないでしょうか。」と、楠田さんはきっぱり言う。
 中学では数学の吉村先生。小学校時代とは逆に、まったく教えない先生だった。窓辺に座っているだけで授業は進まない。そんなことが3時間か4時間続いたあるとき、生徒が先生に「授業は?」と問いかけた。すると、「授業!? 数学を勉強したかったら、君たちが勝手にやりたまえ。数学は人から教えてもらうものではない、自分で開拓する世界だ。」―手元には教科書だけがある。そこで、数学が得意だった生徒がまず前にたって、問題を一題解いた。こんなふうに生徒が順番で授業をやるようになった。ここではじめて、今まで受動的であった授業から積極的に授業に向かうという姿勢を学んだ。友だちが教壇に立っている。のんびりぼんやりしていたら、どんな間違いがあるかわからない、そんな授業の緊張感も生まれてきた。こうして、またもや数学の世界が魅力的なものになる。
 高校は化学の岡村浩明先生。長い休みになると、三重県の伊勢から東京や大阪に出て行くので、生徒たちは皆遊びに行っていると思っていた。ところが、地方から出て、都会で一人暮らしの浪人生活を送っている卒業生たちを訪れ、励ましていたことが判明する。なんて暖かい先生なんだろうと、今度は化学が大好きになってしまった。

 人間は人と人との関わりがあって、いろんな道を選択をして行く。先生の影響ははかり知れない。楠田さんは、個性的な先生たちから、受験のことよりも、もっと大きな世界を見せてもらった。がりがり勉強することよりも、学問をすることの楽しさや魅力を十分に教わった。そのことを心より感謝している。

 楠田さんは、興味のあることは、何でもとことん追い続ける。今は、現代舞踏のカリスマ的コリオグラファー、ピナ・バウシュさんの強烈な追っかけファンである。限りなく優しく大きく楠田さんの人生を包み込むほどのピナの世界を見たあとは、「たとえ、帰りの飛行機が落ちて死んでも文句はない。」と言うほどの充実感に満ち溢れる。その15年にも渡る追っかけの旅の記録が「ピナ・バウシュ中毒」(河出書房新社)として一冊の本にまとまった。ピナの比類ない美しい世界への限りない愛の手紙だ。


 




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